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      金属マグネシウムの洗濯用具にご注意を
最近、金属マグネシウムを用いた洗濯用具「洗濯マグちゃん」の化学的妥当性が大きな問題と なっています。 洗濯マグちゃんは、合成洗剤を使いたくない、石けん運動に関心があるという客層をターゲットに している洗濯用具で、布製の袋に金属マグネシウムの粒が入ったものです。 それでは、洗濯マグちゃんの商品紹介ページ (https://magchan.com/products/detail.php?product_id=6)で説明されている内容の化学的 妥当性について検証してみましょう。 1. 金属マグネシウムを水に入れたときの反応について 商品ページの記述の化学反応が起こったとして、その反応の化学式を示すと、Mg + 2H2O → Mg(OH)2 +H2↑のようになります。 アルカリ金属(1 族元素)やアルカリ土類金属(2 族元素)は、周期表の下にある元素ほ ど、電気陰性度は低くなり、水との反応はより激しく、生成物の水酸化物の塩基性(水酸 化物イオンの反応性)はより強くなります。 マグネシウムは、アルカリ土類金属では、周期表の上から 2 番目の元素であり、金属マ グネシウムは、水とはほとんど反応しません。水酸化マグネシウムの水溶解性も低く、そ の飽和水溶液の pH(20℃で 10.5 程度)も、炭酸ナトリウム(20℃前後の飽和溶液で pH12 以上)を上回ることはありません。少なくとも、金属マグネシウムと水とが反応して、 水が炭酸ナトリウム以上のアルカリ性を示すようなことは考えられません。 水酸化マグネシウムが水に溶けて pH 値が高くなるということは、水中でマグネシウムイ オン(Mg2+)が電離するということを念頭に置いておいてください。 2. 常温の水酸化マグネシウム塩基性アルカリイオン水(pH9.5 程度)は油脂をけん化でき るか? 結論からいえば、無理です。 仮に、けん化反応が起きたとしても、水酸化物イオンの対イオン(カウンターイオン)とし て、マグネシウムイオンが、水酸化物イオンの約半分のモル数で存在していますから、 「水石けん」なるものはできず、直ちに、水に不溶の脂肪酸マグネシウム(マグネシウム石 けん)に変化してしまいます。 pH が 11 以上の熱炭酸ナトリウム水溶液であれば、ごく一部の油脂が部分的にけん化 反応を起こすことにより、その石けん分が未けん化の油脂を乳化するという現象は起こり ます。このことは、業務用のアルカリ性食器洗浄剤にも応用されており、油料理で使った 鉄のフライパンでも再現することができます。しかし、pH9.5 程度の塩基性だと、部分けん 化すら起こし得ません。ましてや、加熱条件ではなく、常温ですから、論外ということになり ます。 ※参考までに、不けん化油脂が残らない、完全な石けん製品を製造するためには、50% 程度の水酸化アルカリ(NaOH または KOH)を使い、撹拌しながら、加熱して煮詰めるくら いの、非常に強い反応条件が必要になります。
このような眉唾商品が真しやかに売られており、消費者もそのようなものを信じてしまうということ は、化学リテラシーを育てない現状の理科教育の問題を示しているといえます。公教育の課程で は、高校化学程度のレベルで説明できることですが、高校でさえも、化学を全員必修にしないと いうことは、身震いするくらい深刻な問題といえます

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